ビジョンと戦略計画

ビジョン声明

BSGOUは、多様な専門知識と最先端技術のシームレスな融合を通じて、生物情報学が生命の複雑性に対するより深い理解を牽引する未来を目指しています。学生、研究者、臨床医、産業専門家、エンジニアを結びつけ、高スループットデータと生命システムの豊かな複雑性をつなぐ新たな理論やモデルの創出を目標としています。究極のビジョンは、膨大な生物学的データを実用的な洞察と包括的理解へと変換し、世界の健康と知識の発展に貢献することです。

範囲

科学的範囲

BSGOUは、生物情報学を、生物学および生物医学データをデジタル化、分析、解釈するすべての計算的・情報科学的アプローチとして広義に定義しています。これには、ゲノミクスやプロテオミクス（RNA-seq、単一細胞RNA-seq、質量分析など）からイメージング、臨床情報学までが含まれます。高スループット技術は基礎的データ源ですが、BSGOUの関心はさらにその先にあり、生命システムの動的で多階層的な複雑性をモデル化できる統合的なシステムレベルのアプローチを目指しています。そのため、多オミクス統合、計算モデル、機械学習、新たな理論的枠組みの研究を推奨し、単なるデータ解析を超えた生命システムの理解を深めます。

活動範囲

BSGOUは、知識共有・協働・革新を促進する幅広い活動に取り組んでいます。

• 会議とシンポジウム：毎年、国際的な生物情報学会議やテーマ別シンポジウムを開催します。具体例として、岡山大学で毎年開催される「生物情報学統合サミット」があり、世界中の専門家を招き、多オミクスやシステム生物学研究を発表・議論する場を提供しています。
• ワークショップと研修：あらゆるスキルレベルのメンバーを対象とした定期的なワークショップ、チュートリアル、トレーニングを開催します。例えば、単一細胞データ解析、機械学習、生信ツール開発などの実践的なワークショップを企画しています。初学者（生物学者・臨床医）向けの入門セッションから、ツール開発者向けの高度なハッカソンまで、多様なレベルに対応しています。
• 共同研究プロジェクト：学際的で機関を超えた共同研究を推進します。例えば、臨床医とデータサイエンティストをつなぎ、複雑な疾患を共同研究するチームを形成します。さらに、共同の科研費申請、データ共有協定、学生交流プログラムなどを促進し、ゲノムと画像データを用いたがん進化のモデル化といったプロジェクトを進めています。
• ソフトウェア・ツール開発：オープンソースの生信ソフトウェアと解析パイプライン開発を支援します。ハッカソンやコードスプリントを通じて、多オミクス統合解析プラットフォームや新しいデータ可視化ソフトウェアなど、ユーザーフレンドリーなツールを共同開発します。こうした活動により、実用的なツールを生み出すだけでなく、ソフトウェア開発や研究再現性のベストプラクティスを促進します。
• 出版とコミュニケーション：出版物やアウトリーチを通じて研究成果と知識を広めます。メンバーは共同で学術論文やレビュー記事を執筆し、協会ニュースレターやブログを通じて重要な発見を伝えます。また、ジャーナルとの連携やオンラインでのオープンアクセスの会議プロシーディングを推進し、公開講演や政策提言などを通じて、生物情報学とその社会貢献の認知度を高めます。

明確かつ広範な活動範囲を定めることで、データ生成から理論構築まで生物情報学の全領域をカバーし、具体的な活動（会議、研修、研究プロジェクト、ツール開発、出版）を通じてそのビジョンを実現します。

使命声明

BSGOUの使命は、包摂的・協調的・革新的なコミュニティを通じ、生物情報学分野を推進することです。岡山大学を拠点とし、グローバルな視野で学生、学術研究者、臨床医、産業界の専門家、エンジニアを結びつけ、以下を目指します：

• 計算的手法による複雑な生物学的課題への協働的取り組み
• 革新的な生物情報学ツールと方法の開発・共有
• 会議、ワークショップ、出版を通じた知識の普及

これにより、データと発見のギャップを埋め、学際的協働を促進し、生命システムの理解を深化させる新たなモデルや理論を生み出します。また、次世代の生物情報学人材を育成し、科学界および医療分野全体の利益となるオープンで再現可能な研究を推進します。

戦略目標

1. 学際的協働の促進 学術界、医療分野、産業界、工学分野からのメンバーによる活発なネットワークを構築し、分野の壁を打ち破る。BSGOUは、多様なチーム（例：臨床医の専門知識とエンジニアの技術スキルを組み合わせたチーム）が革新的な解決策を生み出すことを認識し、分野間の連携とコミュニケーションを促進する。

2. 統合研究と理論開発の推進 複数のデータタイプとスケールを統合する研究を支援し、漸進的な解析を超えて、生物システムの包括的なモデルへと導く。戦略的目標は、ゲノム、トランスクリプトーム、表現型データを組み合わせて新たな洞察を生み出すようなプロジェクトを育成すること。また、（ネットワーク生物学や計算モデリングのような）理論的研究も奨励し、生体システムの創発特性をとらえる。

3. ツールと方法論の革新の促進 新しい生物情報学アルゴリズム、ソフトウェア、計算ワークフローの開発を奨励する。BSGOUは、革新的なツールを生み出すための出発点となることを目指しており、例えばソフトウェアプロジェクトへの助成金やメンタリングの提供を行う。また、オープンソースの実践、再現可能な研究、データ共有の分野における標準を策定することを目指す。

4. 教育と研修の充実 あらゆるキャリア段階のメンバーに対して、トレーニングプログラム、メンタリング、リソースを提供することで人材育成を行う。BSGOUは、生物学者が計算的手法を習得し、計算の専門家が生物学的文脈を理解するような能力の向上に戦略的に取り組む。この目標は、熟練したバイオインフォマティシャンの不足を解消し、非専門家でも高度な技術を活用できるようにすることである。

5. グローバルアウトリーチとコミュニティリーダーシップ 生物情報学の国際舞台におけるユニークな貢献者としてBSGOUを確立する。これには、世界中の他の学会や取り組みとの連携、国際的なイベントの開催、グローバルな議論（例：データ標準や倫理）への参加が含まれる。こうした活動を通じて、BSGOUは地域を越えた影響力を高め、生物情報学分野における世界的課題の解決にリーダーシップを発揮することを目指す。

BSGOUが生物情報学コミュニティにもたらす独自の貢献

BSGOUは、いくつかの重要な強みと独自のアプローチによって、他の生物情報学組織とは一線を画しています：

• 多様な専門性の包摂性 学際的なメンバーシップは、BSGOUのアイデンティティの核です。多くの団体が学術界や特定の職種のみに焦点を当てているのに対し、BSGOUは学生、生命科学者、臨床医、エンジニア、産業界の専門家すべてを積極的に受け入れ、その価値を認めています。それぞれのメンバータイプは相補的な強みをもたらします。例えば、臨床医は患者中心の視点を、エンジニアはシステム設計や最適化のスキルを提供します。こうした多様性は革新のための相乗効果を生み出し、データ生成と解釈のギャップを埋め、生物医学的ニーズと技術的可能性の両方に基づいた生信ソリューションを実現します。

• 理論と実践の統合 BSGOUは、実際のデータ解析と理論生物学を結びつけるユニークな立場にあります。単なるデータ処理上の課題に取り組むだけでなく、生物学のための新しい概念的枠組みの開発を推進しています。例えば、BSGOUは「理論生物情報学」に関する特別作業部会を立ち上げ、コンピュータ科学者、数学者、生物学者が協力して、細胞間相互作用のネットワークモデルや臓器システムのAIシミュレーションなどのモデルを開発することができます。ビッグデータが真の理解に至るには、それに見合うビッグセオリーが必要であるという認識に応え、BSGOUはこのような理論主導型のアプローチを提唱し、分野を先導します。

• 地域的基盤と国際的視野の融合 BSGOUは岡山大学を拠点に、日本の成長する生物情報学エコシステムを国際的な協力の出発点として活用しています。アジアのハブとして、グローバルなネットワークとつながり、既存の学会と重複せず補完するように活動を設計しています。たとえば、国際計算生物学会（ISCB）や各国の生信学会と提携してイベントを共催しつつ、独自の視点や地域代表性を提供します。岡山大学という強力な拠点を活かしつつ、グローバルな思考を持つことで、BSGOUは、例えば新しいトレーニングカリキュラムや特定実験のためのオープンデータリポジトリといった新しい試みを、まず地域で試行し、そこから世界に展開できます。

• 協調的かつオープンな文化 BSGOUの精神は「オープンさ」「指導」「共同成長」です。シニアの専門家は学生や若手研究者のメンターとなり、産業界のメンバーはインターンを受け入れたり、実データを提供したり、エンジニアは自身のコードをオープンソース化して他者が活用できるようにします。BSGOUはオープンサイエンス（データ、コード、プロトコルの共有）を奨励し、進歩の加速を目指します。メンバー間でアイデアやリソースを自由に交換できる文化を育てることで、個々の貢献がコミュニティ全体の発展へとつながるのです。

これらの独自の貢献により、BSGOUは、従来の学術部門や単一分野の団体では提供できない価値をもたらします。例えば、臨床医がデータサイエンティストとすぐに共同研究できる、あるいは理論的洞察がリアルな実験データで迅速に検証できるというような環境を提供し、革新的な形で生物情報学を前進させています。

グローバルな生物情報学の課題への取り組み

現在の生物情報学分野は、グローバルスケールでいくつかの大きな課題に直面しています。BSGOUは、これらの課題に対応するために、そのプログラムと理念を意図的に構築しています。

• データ統合と複雑性への対応 近年のライフサイエンスは、高スループット技術により膨大なデータに溢れていますが、これらの異種データを統合し、有意義な知識を引き出すことは依然として大きな課題です。単にゲノムデータやプロテオームデータを蓄積するだけでは、不十分な結果につながる可能性があります。BSGOUはこの課題に正面から取り組み、複数のデータ型を統合する研究プロジェクトを促進し、統合手法の開発のための会議やハッカソンを開催します。たとえば、単一細胞RNA-seq、エピゲノム、イメージングデータを統合して、組織構造の多層モデルを構築するBSGOU支援プロジェクトが考えられます。異なるデータ領域の専門家を結集することで、BSGOUは異質なデータを統合する新しい手法の開発を支援し、生物システムの複雑性を捉える計算モデルの構築を促進します（例：疾患のマルチスケールネットワークモデル）。こうして、観察にとどまらず説明可能な理論的理解へと分野を前進させます。

• 再現性とデータ品質の向上 生物情報学解析の再現性は世界的な懸念事項です。データセットのばらつき、解析手法の不統一、ドキュメントの不備などが原因で、結果が再現されないことが頻繁にあります。BSGOUは、この課題に対して、再現可能な研究実践をあらゆる活動に組み込むことで対応しています。ワークショップでは、バージョン管理、正確なドキュメント化、標準操作手順の重要性を強調します。BSGOUのツール開発プロジェクトでは、Dockerやワークフローマネージャーなどを用いたコンテナ化されたオープンソースパイプラインを徹底し、誰でも再実行して検証できるようにします。また、「再現性ハッカソン」を開催し、既存論文の再現を試みることで、スキル向上と品質管理のベストプラクティスの普及を図ります。BSGOUは、厳格な標準と透明性を重視することで、生物情報学研究の品質と信頼性向上に貢献します。

• アクセス性、研修、スキルギャップの解消 生物情報学の需要が高まる一方で、熟練人材の供給は追いついておらず、多くの高度な手法が専門家しか使えない状況にあります。これは、生物学者や臨床医が生信技術を十分に活用できない要因にもなっています。BSGOUは、この課題に対し、教育と包摂的参加を通じて正面から取り組んでいます。たとえば、ベンチサイエンティストにRNA-seq解析を教えたり、臨床医に機械学習モデルの解釈方法を伝えるワークショップを提供し、使用障壁を下げます。初心者を経験豊富な生物情報学者とペアにするメンタープログラムや、実践的スキルを得られる共同研究への参加などにより、BSGOUは単なる講義以上の実地教育の場を提供します。これらの取り組みにより、熟練した人材を育成し、高度な技術をより多くの研究者が利用可能にすることで、スキルギャップを埋め、生物情報学の民主化を実現します。

• 生物情報学における倫理的・法的・社会的課題（ELSI） 生物情報学プロジェクトがグローバル化・大規模化する中で、データプライバシー、同意、倫理的使用といった問題が重要性を増しています。BSGOUは、技術革新には倫理的責任が伴うと認識し、ELSIに関する議論を活動に組み込んでいます。例えば、会議中に患者データのプライバシーやゲノム倫理に関するパネル討論を開催します。FAIR原則（Findable, Accessible, Interoperable, Reusable）の採用を促し、データ保護規制への遵守を徹底します。さらに、講義や事例研究を通じて、ゲノムデータの取り扱いや医療におけるAIバイアスなどに対する倫理的配慮を周知します。このような取り組みにより、BSGOUは公衆の信頼を築き、責任ある研究活動の模範となることを目指します。

• 拡張性と計算インフラの整備 人口レベルのゲノムや高解像度画像など、ますます巨大化する生物データは、スケーラブルな計算処理を必要としています。BSGOUは、エンジニアリングやITに精通したメンバーの専門知識を活かして、計算資源の活用法をコミュニティに伝えています。たとえば、クラウドコンピューティング研修を開催したり、岡山大学のHPC（高性能計算）クラスターの利用を支援したりします。BSGOUのツール開発では、並列処理やクラウドネイティブ設計による性能とスケーラビリティの最適化を重視します。また、業界との連携を通じて、最新のストレージ技術やAI向け計算ハードウェアの紹介も行います。このようにして、BSGOUは、拡張性のある計算インフラの普及を支援し、データの洪水に飲み込まれない研究環境を提供します。

このように、BSGOUの組織構造と取り組みは、グローバルな課題に対応するように意図的に設計されています。データ統合と理論の強化、再現性、教育、倫理、拡張性に焦点を当てることで、BSGOUは自らの使命を遂行するだけでなく、生物情報学分野全体の課題解決にも実質的に貢献します。この統合的アプローチにより、BSGOUはリーダーとしての地位を確立し、ビッグデータからビッグディスカバリーへ、そして生命システムの複雑性を包括的かつ実用的に理解する未来を切り開いていきます。

「生物情報学とは単なるツールではなく、生物学を計算可能で検証可能、そして深く理解可能なものへと変える変革的な視点であると信じています。」